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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)172号 判決 1960年6月14日

控訴人 柏崎寿勇 外一名

被控訴人 藤森丑五郎

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

(但原判決主文第一項を「被控訴人に対し(一)控訴人柏崎寿勇は東京都新宿区戸塚町四丁目七百五十三番地宅地四十坪の地上所在家屋番号同町七二番木造瓦葺二階建店舗一棟建坪二十坪二階十二坪五合の内西側建坪十坪二階六坪二合五勺から退去しその敷地二十坪(別紙図面のとおり)を、(二)控訴人目崎健太郎は右建物の内東側建坪十坪二階六坪二合五勺から退去しその敷地二十坪(別紙図面のとおり)をそれぞれ明渡せ」と訂正する。)

控訴費用は控訴人等の負担とする。

この判決は被控訴人において控訴人等に対しそれぞれ金十万円宛の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴はいずれもこれを棄却する(但し本訴請求の趣旨を主文第一項但書のとおり補正する)」との判決並に仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、控訴人柏崎寿勇も本件土地が被控訴人の所有に属することを認める、また控訴人等がそれぞれ被控訴人主張の本件建物の各部分を占有しその敷地(別紙添付図面の二十坪)を占有していることはこれを認める。しかして被控訴人は本件土地を訴外小野間和三郎に賃貸し、同訴外人は右土地上に本件建物を所有していたところ、その後訴外小野間和三郎は訴外永田文蔵に右建物及び敷地の賃借権を譲渡したが被控訴人は右賃借権の譲渡を承諾しなかつた。従つて訴外永田文蔵は借地法にもとずき被控訴人に本件建物を買取ることを請求する権利がある。しかるに控訴人等は訴外文蔵からそれぞれ本件建物の前記部分を賃借し占有しているから同訴外人に対し右建物部分を使用収益する債権を有するものである。よつて控訴人等は本訴において右賃借権保全のため被控訴人に対し訴外永田文蔵の有する本件建物買取請求権を同訴外人に代位して行使する。これにより本件建物の所有権は訴外永田文蔵から被控訴人に移転し、訴外永田文蔵の控訴人等に対する右建物の各部分の賃貸人たる地位も被控訴人に移つたから、控訴人等は右賃借権を以て被控訴人に対抗することができることになつたので、被控訴人の本訴請求に応ずることはできないと述べ、被控訴代理人において、訴外小野間和三郎が本件土地につき賃借権を有していたこと、被控訴人が右小野間和三郎から訴外永田文蔵に右賃借権を譲渡することを承諾しなかつたこと、控訴人等がそれぞれ右永田文蔵から本件建物の内被控訴人主張の各部分をそれぞれ賃借していたことはこれを認める。しかしながら借地法にもとずく建物買取請求はその建物の譲渡を目的とするものであつて建物賃借権保全のために代位行使することはできないばかりでなく債権保全のために必要な限度を超えるものであるから控訴人等から被控訴人に対する本件建物買取の請求はその効力を生じないと述べた外は原判決の事実に摘示されたとおりであるからこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は、甲第一号証を提出し、乙号各証の成立を認め、控訴代理人は、乙第一乃至第四号証の各一、二同第五乃至第七号証を提出し、当審証人永田文蔵の証言、当審における控訴人柏崎寿勇本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

本件土地が被控訴人の所有に属すること、控訴人等がそれぞれ右土地上に存する本件建物の被控訴人主張の部分を占有し、その敷地を占有していることは当事者間に争がない。よつて控訴人等の本件土地占有の権原につき案ずるに、被控訴人がかねて本件土地を訴外小野間和三郎に賃貸し、同訴外人が右土地上に本件建物を所有していたが同訴外人は訴外永田文蔵に対し右建物と共に右賃借権を譲渡したこと、控訴人等がこれより先それぞれ右永田文蔵から右建物の内被控訴人主張の各部分を賃借し使用していることは当事者間に争がなく、被控訴人が訴外小野間和三郎から訴外永田文蔵に対し、本件土地を目的とする右賃借権を譲渡することを承諾しなかつたことは本件弁論の全趣旨に徴し明なところである。これによれば右永田文蔵は被控訴人に対し借地法にもとずき本件建物買取請求権を有するものといわねばならぬ。しかしながら賃借権者はその債権の保全のためであるにしても債務者に代つてその賃借物を処分することは許されないのであり、右永田文蔵の本件建物買取請求権の行使は建物の譲渡すなわち右永田文蔵において建物所有権を喪失する結果を招く(そして右永田文蔵の賃貸人の地位の移転をも招く)ことになるのであるから控訴人等が訴外永田文蔵に代位して右買取請求権を行使することは建物賃借人の権利保全の限界を超えた処分行為として許されないものと解するのが相当である。従つて控訴人等が本訴において訴外永田文蔵に代位して被控訴人に対し本件建物買取請求の意思表示をしたとしてもその効力を生ずるに由なく、これによつては控訴人等において被控訴人に対し本件土地を占有する権原を取得するに由ないものというべく、他に控訴人等において右権原を有することにつき何等の主張立証のない本件においては控訴人等はそれぞれ本件建物の被控訴人主張の部分から退去しその敷地二十坪を被控訴人に明渡さなければならないのである。しからば被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。(但し、原判決は明渡すべき土地の範囲が稍々明確を欠くうらみがあるので主文のように補正するのを相当とする。)

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十三条、第九十五条、第百九十六条第一項を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 堀田繁勝)

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